佐々木敦さんのこと

02 Too Fast To Live Too Young To Die

先日、DOMMUNEで佐々木敦さんの還暦記念番組というのがあり、佐々木さんの本をいちばん作っている編集者として出演してきた。

トークは三部構成で、音楽の話、映画の話、文学と新刊『成熟の喪失 庵野秀明と〝父〟の崩壊』の話。ぼくが出たのは児玉美月さんと一緒に映画の部。もっぱら佐々木さんにとって映画はちょっと他と比べても特別なんじゃないかという話が中心で、あんまりぼくが口を挟むところもなかったので、話そうかなと思っていたことをここで書いておこうかなと思う。

もともと佐々木さんの文章を最初に読んだのはたぶんクロスビーとでの映画評と輸入盤レビューだったので、ぼくの中では佐々木さんといえばまずは音楽と映画の人だった。
映画評はのちに『映画的最前線』にまとめられるもの。なんというか、シネフィルぽいものにぼくが初めて触れたのはこれだった気がする。
それより当時大きかったのは、佐々木さんが紹介する数々の「変な音楽」だった。レコメンおよびジョン・ゾーン周辺、そこから連なるロウファイや音響派と名指されるもの。高校時代のぼくはBUCK-TICKの今井寿の影響で変な音楽に興味を持ち始めたところだったのだ。
大学に入る頃にはイベントUnknown Mixもスタートしており、そうした音楽を実際に聴くきっかけも作ってくれた。ジム・オルークなんかはまだミュージック・コンクレートみたいなのをやってた頃から佐々木さんがイベントでかけてたと思う(ガスタ加入前)。

仕事で初めて絡んだのは佐々木さんがHEADZ事務所で「Brainz」という私塾/カルチャースクールを始めたときで、ぼくがその講義を本にしたいと申し出たのだった。佐々木さんの「批評家養成ギブス」のほか、大谷能生さんの「20世紀の批評を読む」、あと仲俣暁生さんと畠中実さんと森山裕之さんと木村覚さんというのが第一期ラインナップだったかな。
全部の講座を本にしたいというのが他になかったということもあって「ブレインズ叢書」という形でスタートすることに。佐々木さんの『「批評」とは何か』がその第一弾となった(大谷さんと同時発売)。

ブレインズ叢書はいろいろあって結局4冊しか出せなかったのだが、その後も佐々木さんとの仕事は続く。
ジュンク堂新宿店で行われた小説家との対談シリーズ『小説家の饒舌』。ジョン・ケージの「4分33秒」についてひたすら語った『「4分33秒」論』、古川日出男さんとの対談を集めた『小説家の二〇年 小説の一〇〇〇年』、演劇評論を集めた『小さな演劇の大きさについて』、児玉美月さんとの対談『反=恋愛映画論』。

こうしてみると、やはり語りを起こしたものが多い。その多くはぼくがテープ起こしをして、本人に直してもらうというパターンだ。『「4分33秒」論』あたりでだいぶこちらもやり方が掴めてきたと思う。

で、DOMMUNEで言いたかったことなのだけど、佐々木さんは「一人カルチャー誌」とも呼ばれたこともあるくらいで、興味の幅がとても広い。ぼくが携わった本だけでも文学、音楽、演劇、映画とジャンルは多岐にわたっている。こちらもそれに対応するべくいろいろ調べたり読んだりするから勉強になる。
そして本人は社交的じゃないといつも言ってるけど、実際には人とのつながりがとても豊富で、けっこうハブになっている人だと思う。でないと「ことばの学校」なんてできないだろうし。佐々木さん本人だけでなく、ぼくがブレインズや「小説家の饒舌」で知り合った人たち(著者たちだけでなく、生徒とかスタッフとかも含めて)とはその後もいろいろと公私にわかって付き合いができた。それがいちばんありがたいと思っている。

ということで、ぼくは今度どうなるかまだわかりませんが、DOMMUNEでも「あと一冊くらい作りたいね」とも言ってもらえたことだし、1冊と言わずにいろいろと今後も一緒にできるといいなと思っています。改めて、還暦おめでとうございます!!

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