今年刊行された著者ニ年ぶりの短編集。基本的にはSFなんだが「異形コレクション」掲載作が多く、怪奇・幻想的な雰囲気もある。そういうのは大好物なので、とても楽しめた。

掲載作は以下の通り。
化石屋の少女と夜の影
ヒトに潜むもの
封じられた明日
成層圏の墓標
車夫と三匹の妖狐
龍たちの裔、星を呑む
天窓
地球をめぐる祖母の回想、あるいは遺言
ゾンビはなぜ笑う
南洋の河太郎
このうち大正~昭和初期くらいを舞台にしたような作品が四作と目を惹く。中でも「封じられた明日」「南洋の河太郎」は太平洋戦争も関わってくる。
特に印象深かったのが書き下ろしの後者。主人公は少年時代に河童(=河太郎)を目撃し、後に生物学者となってパラオに赴任する。そこでまた河童を目撃。現地人の少年を通して交流していくが、やがて戦争が始まり――というもの。植民地支配への批判なども絡み、分量的にも本書掲載作のなかでは特に読み応えのある一編だ。
タイトル作では雨坊という謎の生物が登場。それに触れると破裂し、飛沫に濡れると「青い風景」を見るようになる。雨坊との接触で行方不明となる人も現れる。はたしてこの雨坊とは何なのか。
「龍たちの裔、星を呑む」は宇宙空間に存在するエネルギー体である「龍」を描く壮大な宇宙SF。
ほか、怪談話風の「車夫と三匹の妖狐」あり、近未来ディストピア的な「地球をめぐる祖母の回想、あるいは遺言」あり、違種と呼ばれるゾンビを狩る主人公とストリートピアノを弾く違種の関わりを描く「ゾンビはなぜ笑う」等々、アイデアも雰囲気もある好短編揃いだった。
版元のサイトでは「日本を代表するSF作家のひとり」とあるのだが、寡聞にしてぼくはこれが初めて。ゼロ年代デビューくらいのSF作家がすっぽり抜けてる気がするので、いずれまとめてちゃんと読まなきゃなとは思うのだが。
コメント