斜線堂有紀といえば地方も含めて毎回文学フリマに出店、いつも長蛇の列ができる作家さんという印象が個人的には強い。

ラノベ出身で基本的にはミステリ畑で活躍しており、昨年は初のSF短編集『回樹』を刊行(おもしろかった)。
ぼくが初めて読んだのは『楽園とは探偵の不在なり』(ハヤカワ文庫JA)で、「2人以上殺した者は“天使”によって即座に地獄に引き摺り込まれるようになった世界」で起きた連続殺人という特殊設定ミステリだった。これが実に面白かったので、その後もいくつか読んでいるのだが、いずれもよくこんなこと思いつくなーと感心するようなものが多い。

で、今回読んだ『ミステリ・トランスミッター』はタイトル通りミステリの短編集。
全5篇それぞれ一話で完結しており内容的にはつながりはないが、すべて「伝える」というテーマで書かれている。
一編目の「ある女王の死」は大勢から恨まれていた「ヤミ金」業者の女性が腹を切り裂かれて死んでいた殺人現場に遺されたチェス盤、そして金庫に残されたものは――ということから始まって殺された女性の生涯をたどるというもの。いわゆる「ダイイングメッセージ」にかかわるものだ。
ほかにも、航空宇宙士が自宅に設置しておいたカメラの映像を通して妻が殺害されたことを目撃。それをなんとか地球の管制官に伝えようとする「妹の夫」。
続く「雌雄七色」は売れっ子脚本家のもとに届いた7通の元妻の手紙という書簡体小説。シチリア出身のギャングのところに危険を知らせる声が届く「ワイズガイによろしく」。ボイジャー号に乗せるのにふさわしい写真を選ぶための会議を描いた「ゴールデンレコード収録物選定会議予選委員会」と、設定的にそこまでぶっ飛んではいないものの、それぞれに技工が凝らされていてどれも面白い。
ウェブ連載の読書日記からもめちゃくちゃ幅広く本を読んでいることがうかがえるので、今後ももっといろいろ多方面での活躍を期待したいと思います。
なお、杉江松恋さんの紹介によればいずれもミステリーファンにとっては特に唸るような技工が盛り込まれているということなのだが、そこんとはミステリーファンではないぼくには正直よくわからなかった。それでも全然面白く読めると思うのでご心配なく。

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