ジム・デロガティス『レスター・バングス 伝説のロック評論家、その言葉と生涯』【170冊目】

03 Books

『あの頃ペニー・レインと』という映画がある。ロック評論家から映画監督に転身したキャメロン・クロウが音楽ライターとしての駆け出し時代のことを描いた自伝的青春映画で、ぼくは正直なところ決して好きではないのだが(色んな人を踏み台にしてきたことを美化してるだけじゃねえの?という印象が拭えない)、好きなシーンもあって、それがフィリップ・シーモア・ホフマン演じる先輩評論家、レスター・バングスの登場するシーンである。

レスター・バングスは名前は日本でも(アメリカのロック・ジャーナリズムに興味のある人の間では)知られているが、その著書はこれまで邦訳がなかった。ぼくは「エルヴィスが死んだとき、あんたはどこにいた?」というエッセイを「ユリイカ」のロック特集号で読んだのが印象に残っているが、そんな感じで雑誌にちょこっと載ったことはたぶん他にもあったかな、くらいの感じだと思う。

彼が生前に残した文章をグリール・マーカスがコンパイルした著作集『サイコティック・リアクションズ・アンド・キャブレター・ダング』も最近邦訳が出たが、その前に出たのがこの評伝だ。

欧米のこういった評伝の例に漏れず、本書も祖父母の代から始まる。バングスの場合は母方がエホバの証人の信者であったことが後々まで影響を及ぼしている。

少年時代にはまずジャズにハマる。マイルスから入ってミンガスを信奉するように。その後、ビートニク、特にバロウズにハマる。

60年代後半はちょうどロック評論が生まれた時代だった。グリール・マーカスが編集に携わっていた「ローリング・ストーン」に寄稿を開始するが、やがてデトロイトに移り「CREEM」誌で仕事をめる。比較的ハイブロウだった「ローリング・ストーン」と比べてより大衆的な誌風で、のちのパンクにつながる価値観を打ち出していた、ということなのかな。

とにかくルー・リードへのこだわりは強く、『メタル・マシーン・ミュージック』を絶賛する記事も書いている。周囲からは冗談としか思われなかったようだが。
一方でまだ詩人でライターもやっていた頃のパティ・スミスに執心して追いかけ回していた時期もある。

デトロイトからニューヨークに移った時期にはCBGBのシーンができつつあり、バングスもそこにハマっていく。やがて自分もバンド活動を始めてそっちに夢中になったりも。

アメリカを代表するロック評論家と目されているものの、生前に刊行した書籍は少ない。企画はたくさんあったのだが、実現したものはほとんどなかった。数少ない例外がブロンディのファンブックなのだが、それもメンバーからは大不評。
本人は晩年には小説を書いて「作家」になりたかったようだがそれも実現せず。最後に書き下ろした『ロック・ゴモラ』(「ロックンロール・バビロン」みたいな本)も刊行されなかった。

やはりロック評論家が求められた時代の産物といっていい人物で、こういう人はもう現れないかもしれないなとは思う。
当たり外れの大きい作風の人だったことは本書からもうかがえるが、とりあえず『サイコティック・リアクション』は続けて読みたいなと思う。

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