豊穣な日本SFの新鋭にまたひとり、注目の書き手が登場か。

いずれもぶっ飛んだ5篇を収録のデビュー短編集である。収録作は以下の通り
すべての原付きの光
ショッピング・エクスプロージョン
ドストピア
竜頭
ラゴス生体都市
まず冒頭2作でぶっ飛ぶ。
表題作では近江八幡市でもっとも治安の悪い地域に記者が取材で潜入する。暴走族の総長である「不良」とコンタクトを取り、連れて行かれた先にはイキがって原付を乗り回していたために暴走族に狩られた中学生が吊るされている。「不良」は記者に謎の機械を見せて語り始める……。
ルビの多さはウィリアム・ギブスンの翻訳のパロディなのだろうか。「強奪(ジャイアン)」とか「鉄砲玉(バレットマン)」とか、ふざけてて楽しい。
不良の機械の思いがけなすぎる正体からのとんでもない展開。読後の一言目は「なんだそりゃ」であった。
「ショッピング・エクスプロージョン」では巨大化したディスカウントショップ「サンチョ・パンサ」を舞台に、命がけで万引きを試みる人々。
サンチョ・パンサのテーマソングで爆笑。これまた「なんだそりゃ」という話であった。
以下、ヤクザが排斥された世界で身を隠しながら生きるヤクザたちが主人公の「ドストピア」、田舎の閉鎖的な社会に息苦しさを感じている幼馴染の男女とそこに起きる怪異を描く「竜頭」。そして生殖やポルノが禁止されたアフリカに生きる孤児が活躍する「ラゴス生体都市」。
「ドストピア」ではヤクザたちの唯一の楽しみとして濡れタオルで戦う「タオリング」という競技が登場。かつては正月興行の「ITGP(インターナショナルタオリンググランプリ)」や夏の大会「T-1クライマックス」といった興行を仕切っていたという。
「ラゴス生体都市」にはアンダーグラウンドでポルノを制作している監督の名が「ブギ・ナイツ」。
といった感じでパロディの数々も楽しい。
とにかく鬼才なのは間違いない。「ラゴス生体都市」でゲンロンSF新人賞を受賞してデビューしたということだが、創元SF短編賞も獲ったそうなのでそのうち東京創元社からも本が出るのではなかろうか。注目したい。
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