コロナ後のポスト・アポカリプスSF―松崎有理『山手線が転生して加速器になりました。』【106冊目】

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タイトルからして何事かと思うが本当にそういう話だった。
巨大な素粒子実験機を作りたいと考えた科学者たちが、廃線となった山手線を利用することを考える。ところが起動させてみると、その加速器は山手線だった頃の記憶を残しており、そちらに誇りとアイデンティティを感じている。加速器として生きる意味を問われた学者たちは……

なんらかのパンデミックにより都市文明が終焉。人々は地方に四散し、リモートで生活を送っているという設定の連作短編集で、ユーモラスかつ心温まる作風が一貫している。
以下の七篇を収録。

「山手線が転生して加速器になりました。」
「未来人観光客がいっこうにやってこない50の理由」
「不可能旅行社の冒険―――けっして行けない場所へ、お連れします」
「山手線が加速器に転生して一年がすぎました。」
「ひとりぼっちの都会人」
「みんな、どこにいるんだ」
「総論 経済学者の目からみた人類史」

特に無人となった東京に一人サバイバル生活を送っている少年と、パンデミックで店を畳んでアバターロボットによる出張料理だけをするようになった元シェフの交流を描いた「ひとりぼっちの都会人」はポストアポカリプス風味の佳作。

「小説宝石」に散発的に発表されたものに書き下ろしを加えた形。表題作の初出が2021年で当然のごとくコロナ禍を意識して書かれている。

著者はぼくは全然知らなかったが十年代前半デビュー、着実に作を重ねているのでもう中堅といっていいだろう。作家デビュー前に医療系研究所勤務、テクニカルライターを経ているということで理系の出自らしいSFを多く書いているようだ。

『山手線が転生して加速器になりました。』特設ページ
作成日:2024/08/05 最終更新日:2025/02/14 かいたひと:松崎有理 「SFが読みたい!ベストSF2024」(早川書房)が発表されました 弊社から『山手線が転生して加速器になりました。

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