「文學界」「群像」に続き芥川賞候補作を掲載誌ごと読むチャレンジのラストを飾るのは「文藝」である。今回は3冊だけなので楽勝だ。「新潮」「すばる」は無かったんですね。

まずは芥川賞候補作、向坂くじら「踊れ、愛より痛いほうへ」。
理不尽な思いをすると頭が「割れ」て中から言葉が溢れてくる少女が主人公。前回の候補となった「いなくなくならなくならいで」よりぼくは好きだったかな。
向坂と同じく詩人でもある水沢なお「こんこん」はテーマーパークに通い詰める推し活の話。こういうのはもういいかなという感じ。
特集としてまず「日記」。滝口悠生が「日付をつけること」の重要性を論じているほか、岸本佐知子の日記や柚月麻子のイギリス旅行記がおもしろかった。
つづけてもう一つ、「批評」という特集。
町屋良平・滝口悠生・倉本さおりの鼎談がフィーチャーされており、2016年の断絶という話題がのぼる(町家の「小説の死後──(にも書かれる散文のために)──」がきっかけとなっている)2000~2015ごろに発表された日本文学の転換点として挙がった作品リストが興味深い。こういうとき、やはり青木淳悟って名前が上がるなあと。
犬特集なんてのもあり、岸政彦の犬エッセイがよかった(ポッドキャストでいつもしてるような話だが)。
また、ハン・ガンのノーベル文学賞受賞記念小特集というものも組まれており、まだあまり訳書もなかったころの鼎談が再録されていたのが興味深い。かつて中上健次が熱心に韓国の作家と交流していたそうで、韓国では年上/年下が重要だが、それを気にせずグイグイ行く中上が特殊に見えていたのではないかという。ちなみに当時、韓国ブームがあって、平凡パンチで内田裕也が尹興吉にインタビューしていたという。それ読みたい。
Amazon.co.jp: 踊れ、愛より痛いほうへ 電子書籍: 向坂くじら: Kindleストア
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文藝 2025年春季号
創作:向坂くじら、山崎ナオコーラ、水沢なお/特集 日記 記憶と記録:岸本佐知子、いしいしんじ、滝口悠生、柚木麻子/特集 犬を書く、犬と生きる:松浦理英子、小川洋子×千早茜、岸政彦/特別企画:ハン・ガン・日本・中上健次
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