翻訳SFでは最大の話題作―『反ミーム部門は存在しない』【183冊目】

03 Books

今年の翻訳SFでいちばんの話題作はたぶんこれだろう。

著者名の「qntm」(クォンタムと読む)からして、「インターネットぽいなあ」と思わされるわけだが、それもそのはず本作は「SCP財団」という4ch発のシェアワールドがベースとなっており、もともとはネット小説だったのだ。商業出版化するにあたってかなりブラッシュアップされており、その際にSCP財団固有の要素は削除されているそうなんだけど(一部、用語などはリスペクトの意を込めて残されている)、『バックルームズ』とかもそうなんだけど、おっちゃんはもうそういうのなかなかついていけないよ。

超自然的な未確認生物「アンノウン」と戦う「機関」。その一員であるマリー・クインが上司に呼び出されるところから始まる。彼女とその所属部門についての記録が存在せず、職員たちの記憶にもないことから、スパイ容疑をかけられたのだ。

アンノウンの中でも記憶や状況を操作して、自身の存在を感知させない「反ミーム」的なアンノウンというのがいる。ミームというのは、情報が伝染的にひろまっていくようなものを言うので、その逆ということですね。でっかい岩みたいなのがそこにいるのに、なぜか知覚できないみたいな存在で、『ドラえもん』の石ころ帽子を思わせたりもする。

とにかく記憶や記録が消去・改竄されてしまうので、敵の存在自体を忘れてしまう。反ミーム部門の面々は記憶固定剤などを用いて対抗しているのだが、そんな彼らの記憶や記録も揺れている。そもそもこの部門はいつから存在しているのか? アンノウンとの叩きはいつから続いているのか?

主人公である反ミーム部門のリーダー、マリー・クインが同僚・部下たちと、アイデンティティの危機に襲われながら戦っていく。アンノウンに関する記憶以外も食べられてしまったりするので、そのことから生じる悲劇もある。
エピソード集的に少しずつ謎が提示されたり明かされたり明かされなかったりする前半。そして後半では世界を危機に陥れるような巨大なアンノウンとの絶望的な戦いになっていく。

何が起きてるのかもよくわからなくなったりする場面もしばしばあってちょっと難しいんだけど、敵の設定の斬新さなどもあって一気に読めた。

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