サッチモことルイ・アームストロングといえばスキャットの発明者で、独特のダミ声で歌う「この素晴らしき世界」で有名。そのくらいの認識だったのだが、たぶんそういう人は多いんじゃなかろうか。

サッチモのドキュメンタリーである本作の冒頭でウィントン・マルサリスも、ルイ・アームストロングなんて馬鹿にしてたけど父親からこれを練習してみろとトランペットソロのテープを渡されてやってみたら全然できなくて衝撃を受けたというエピソードを披露している。
本作では彼の生涯を時系列でたどりつつまずトランペッターとして、そしてジャズのソリストとしてのルイ・アームストロングの位置付けから始まる。クライマックスで高音で爆発していくようなスタイルを作ったということのようだ(「高いド」とかいう字幕はちょっと……そこは「C」じゃ駄目ですか)
有名なスキャットを生んだ経緯についてエピソードも本人の口から語られている。あ、そうそう、サッチモはすごい記録マニアで、自宅に大量のテープが残されているのだそうだ。暇さえあればテープの索引づくりをしていたそうで、おかげで本作では随所で本人による語りが挟み込まれる。そもそも大スターなので映像もたくさん残っていたようで、そのあたりは戦前から活動している黒人ミュージシャンとはいってもブルースマンとは違うところだな。
トランペットソロやスキャットからジャズ特有の音階(いわゆるブルーノート)が広まっていったこと、またあのダミ声がそれ以降の黒人シンガーたちにつながっていったという指摘もされる。でもまあこのへんはちょっと盛ってる気がするというか、たしかに存在としては大きかったかもしれないけど、彼一人が発明したわけではなさそうな気がするな。
また、50~60年代以降にあると「白人に媚びる黒人」という批判が寄せられるようになっていくが、実際には彼自身も非常に強い怒りを内に秘めており、プライベートな場ではかなり激しい発言もしていたようだ。公民権運動へは資金提供は行っていたという。
非常に複雑なものを抱えていたということはわかったのだが、観ている側としてもこの点についてはあまりスッキリはしなかったかな。
ともあれただいまジャズを勉強中の身としては避けて通れない人ではある。ソロイストとしての彼に着目してあれこれ聴いてみたい。
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