※わりと内容に触れています
年間ベスト級の傑作である。
『クリード』『ブラック・パンサー』のライアン・クーグラー監督による最新作。いずれも政治的なブラック・ムーヴィでありつつ大ヒットシリーズの一環であることを両立させるという離れ業だったわけだが、今回は完全オリジナル。

地元でならしたギャングの双子、スモークとスタックがシカゴで大金を稼ぎ、ジュークジョイント(まあブルース酒場みたいなもの)を開店するために故郷に帰って来る。双子はマイケル・B・ジョーダンが二役でやっているのだが、この演じわけが見事でまず感心。

かつて彼らからギターをもらい、保守的な牧師の家に生まれ、ずっとブルースは悪魔の音楽と言われながらもずっと腕を磨いていた双子の従弟サミーもその店でデビューを飾ることになる。ポスターではマイケル・B・ジョーダンが主役のようになってるが、こっちが主人公。

双子とサミーがかつての仲間たちのところを回って開店準備をするところが楽しい。脇役がみな魅力的なのだ。特に女性陣がいい。
途中、農場で労働歌をうたいながら作業する黒人たちのところを通りかかる場面もある(『名もなき者』のフォークフェスで出てきたやつですね)
その夜、いよいよ開店。ベテランのブルースマン、デルタ・スリムが会場を温めた後で紹介されるサミー。まずは自分が何者かを語ってからブルースを演奏し始めるのだが、そこに過去のアフリカのグリオ(語り部的なシャーマン)からPファンク風のエレキギタリリスト、ラッパーとDJなどが幻視されてゆく。
そもそも映画のオープニングで超常的な存在に触れる者としてのミュージシャンたちの存在が語られるのだが、その系譜につらなる「変わりゆく同じもの」(アミリ・バラカ)を見事に視覚化した名場面だ。このあたり、とりあえず『ブラック・カルチャー』(岩波新書)くらいは事前に読んでおくといいと思う。
そんな酒場を白人の吸血鬼たちが襲うところで事態は急変する。なかなか伝承に忠実な吸血鬼像で、招き入れられないと家に入ることができないし、ニンニクに弱く、心臓に杭を打たれると死ぬ。
吸血鬼たちがアイリッシュ・フォークを歌い踊りながら迫りくるところも象徴的なシーンだ。どっかで聴いた曲だなと思ったけど、ドロップキック・マーフィーズがやってましたね。
吸血鬼たちのボスが狙うのはサミー。彼のブルースを吸収したいと思っているようなのだが、このあたりにロックンロールの誕生が示唆されているのだろう。
劇中で3回くらいジャンルが変わる展開で、普通に考えたら詰め込みすぎでガチャガチャしそうなところなのだが、そこでズッコケにならないところが力量というやつか。
その後、生き延びたサミーがブルース・シンガーになったところをバディ・ガイが演じていて、持ち帰ったギターでかつてのレパートリーを弾いてみせるのだが、ネックの先っぽだけになったギターにボディを継ぎ足したものを「あのギター」と言っていいのだろうかと素朴な疑問を持った。
そういう細かいツッコミどころはちょこちょこあると思うんだけど、まあ吸血鬼っていう時点で言うだけ野暮というもの。さすがの一作だ。
ていうかなんだか吸血鬼映画流行ってますね。ここは紙版「NOIZ NOIZ NOIZ」の吸血鬼特集を読むしかないのでは

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