『ロックの正体』が面白すぎたため、著者の旧著も読んでみようということで手に取った一冊。都内の有名な公園の成り立ちを通して近代日本の成立を描くという、これまたスケールが大きくジャンル横断的な試みである。公園というもの自体が西洋からの輸入品であり、日本の近代化と切っても切れない関係にあったということがよくわかる一冊だ。
明治維新にあたり、江戸にあった諸藩の江戸屋敷が広大な空き地となっており、そういうところに新政府の施設がいろいろと入っていく(軍隊の駐屯地とか)。そもそも明治天皇が東京にやってきた経緯自体がけっこうなし崩し的な流れだったようで、そのあたりも面白かった(とにかく手続きを有耶無耶にして既成事実を作っちゃうみたいなのは日本的なやり方なのだなあと感心した)
日比谷公園、新宿御苑、明治神宮について綴られているのだが、個人的に特に面白かったのは(そこそこ自分も縁があるので)やはり御苑。
そもそも新宿御苑のあった場所は農学校があった。しかしながら、遊郭が近いこともあって教育上よろしくないのではないかと駒場に移転(これが東大農学部になる)。
日本に近代的な植物学・農学をもたらしたいと思っていた役人がいたのだが、急進的すぎて農水省とかは外されて宮内省に。そこで、皇室の植物園として御苑を作ることになるわけだ。農業の発展のためには、最高品質の作物を育てなければならないということで、当時の農学技術の粋を結集して作られた植物園が後の御苑になるというわけ。都内の銀杏並木なんかは、もとをたどると御苑から分けられた物が多いという。
一方で、同じように近代的な農業の導入を夢見ていながらうまくいかなかった同志の存在もあったりして(甲州のワインはこの人が土台を作った)、御苑を作った植物学者の物語は大河ドラマとかにしてもいいんじゃないか。地味かもしれないけど。
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