議事堂襲撃事件から企画された特集なのだと思うが、今後「第二、第三のトランプ」が現れるかもしれないと語られており、さすがに本人があんなふうにより強力にカムバックするとは思わなかっただろう。

まず特集巻頭の対談で当時の見取り図がよく整理されている。アメリカはそもそも左右にかかわらず陰謀論と親和性が高い国民性であること。とにかくアメリカ人は個人の自由に重きをおくので、右派が連邦政府を嫌うのと左派が大企業による支配を嫌うのは同根であると。
そんな中でもイラク戦争の失敗により共和党主流派が信頼を失い、それまで傍系だったタイプの陰謀論寄り(ディープステートとか言ってる人たち)な右派が台頭してきたという流れだったのね。現代のアメリカにおける陰謀論のキーパーソンたちについての解説も充実しておりためになる。
ユダヤ人、フリーメイソン、共産主義、イルミナティ、カトリック、レプティリアン、サタニスト、フェミニスト、みたいなものが陰謀論のネタになってきている。
50年代から共産主義の脅威のメタファーとして「SF/ボディ・スナッチャー」みたいな宇宙人による身体乗っ取りSF映画が作られてきたわけだが、アメリカ人の共産主義観っていうのがそういもんだ考えると、アメリカでは「社会主義っぽい」というだけで毛嫌いされるというのもわからなくもない。たとえば皆保険制度なんかも「そんなの社会主義だ!」って言われるらしいからね。
そして日本は伝統的に陰謀論が根づきにくかった。数少ない陰謀論の流行った時期が戦前のユダヤ陰謀論と最近のJアノン~反ワクみたいな流れ。かつての「ユダヤの脅威を食い止めてくれるナチス」みたいな形で「中国の脅威を食い止めてくれるトランプ」みたいな支持の構図ができている。
そもそも日本人はユダヤ人の話が好きで、『日本人とユダヤ人』からはじまるユダヤ人=天才とか商才があるといった言説も、それはそれでユダヤ人差別やユダヤ陰謀論につながっている。酒井勝軍の日ユ同祖論や、その後の日本におけるユダヤ陰謀論の流れ、さらには太田竜の話なんかも載っており、持田保さんの「Industrial Poetry」シリーズとも関心系がつながってくるのが個人的には面白い。
フェミニストに対するバックラッシュを行う女性たちの話というのも出てくる。フェミニズムとかはディープステート的な陰謀だとして、「フェミニストに虐げられて傷ついた男性を救うヒロイックな女性」という像を作ったりしているようだ。日本にもそういう女性っているけど、そこには触れてくれてないのが残念ではある。
英国ではこの頃からトランスジェンダーに対するバックラッシュが始まっていたのだなということもわかった。こういうのは数年後に読むことでの発見でもあるな。
先日の教育特集もそうだったが、『現代思想』はこういう社会的なテーマの特集号がたいへんためになる。いまはバックナンバーを図書館で借りてるのだが、できれば今後、買って自炊しておきたい。
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