プルーストを読み終えて、さて今度は何を読もうかなと考えていたのだが、そこで思いたったのが『魔の山』であった。
サナトリウムを舞台にして書かれた小説で、しかも執筆期間が第一次世界大戦を挟んだことで当初の予定と大幅に変わったのだという。これはまさに『失われた時を求めて』との比較対象として最適ではないか。
ということで、先日読んだフィッツジェラルド同様、親がむかし買った集英社世界文学全集が家にあったのでまずは一巻を読んだ。プルースト同様、1日20ページずつ寝る前に読む形を取った。

まずまえがきで「語り手はこのハンスの物語を掌を反すようにかたづけてしまうことはないであろう。これには一週間、七日ではたりないし、七ヶ月でもたりないであろう。(中略)まさか七年とはかかるまい!」と、いきなり長い話になることが示される。望むところである。
主人公のハンス・カストルプは造船業に就職の決まっているのだが、結核療養中の従弟ヨーアヒム(軍人候補)の見舞いを兼ね、ヴァカンス気分で山の上のサナトリウムを訪れる。
自分は健康だから3週間で山を降りると言っているのだが、ここでは時間の流れ方が外界とは違うので、3週間なんて一瞬だと言われる。そして予言があたるかのようにハンス・カストルプは熱を出し、滞在は長引くことになる。
一日に五回も食事が出たり、音楽会やらパーティやらが開催されたりと浮世離れした舞台。そこに集まる個性的な人々。さらには語り口の面白さもあり、プルーストとはまた違った面白さがある。
たとえばこんなところとか最高じゃないですか
ここに、読者があまり驚かなくてすむように、まず作者が驚いてみせるのがよかろうと思われる現象がある。すなわち、この上の世界の住人の許にハンス・カストルプが滞在した最初の三週間(人知にもとづく予見によればこの滞在の期間になるはずであった夏の盛りの二十一日)に関するわれわれの報告がおびただしい空間と時間を嚥み込んだのに反して、もっともこの拡がりはわれわれのなかば公然たる期待にあまりにも合致するものであったが、――この土地で過した彼の次の三週間は、最初の三週間が費したぺージ数、印刷紙数、時間数と日数ほどの行数、語数、秒数を要することはないのであって、やがてわかるように、この三週間はあっというまに過ぎて葬り去られることになるであろう。
最初の一日をすごくじっくり描いたと思ったら後半であっという間に三週間、そして一年が経ったところで上巻が終わった。上巻の終盤での魔性の女的なロシア人人妻とのやりとりなんかもめちゃくちゃ面白い。ドイツ人がロシア人に向かってなぜかフランス語で愛を囁くのだが、その内容が抱腹絶倒なのでぜひ実際に読んでいただきたい。
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