掌編の積み重ねで描き出すディストピア社会―ラヴァンヤ・ラクシュミナラヤン『頂点都市』【175冊目】

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インドの作家によるディストピアSF。となるとカースト制度への風刺みたいなものになるのかなと安直に考えたのだが、むしろもっと幅広く現代社会への批判であった。

インドの都市ベンガルールは「頂点都市」として徹底した能力主義に基づく階級社会が形成されている。
最上位の「ヴァーチャル民」たちはほとんど部屋から出ることなく、ヴァーチャルで仕事も生活も済ませることができる。
一方で最下層の「アナログ民」たちはスラムみたいなところに押し込まれ、不便な生活を強いられる。
つねにシステムにより生産性の査定が行われ、ヴァーチャル民であっても数値が下がると階級を下げられる。

掌編の積み重ねによってこの未来社会がさまざまな視点から描かれているという形。そんななかでだんだんとヴァーチャル民に対するアナログ民の抵抗と蜂起という大きなストーリーが進行していく。

印象に残ったのはアナログ民の産まれでありながらヴァーチャル民に養子としてもらわれ、差別を受けながら上流階級の学校に通う少女のエピソード。
彼女はやがて音楽の才能を発揮していくのだが、システムに常時接続してその補助による「正確な演奏」を可能にしている同級生たちと比較して、システムの補助を得られない自分の演奏にコンプレックスを抱いている。養父母たちはそんな彼女にこそ本物の音楽が奏でられるのだと励ましていく、というような話。

中国や韓国のSFの紹介がかなり進んでいるが、それにとどまらずいろんな国のSFが紹介されるようになってきている感じがして実に楽しい。これってやはりバチガルピあたりがきっかけだったのかな。

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